ねえ、こころ。
パパはある日からママのお腹の中のきみに声をかけられなくなってしまったんだ。
ママの為ってあの時は思ってたけど本当は自分が傷つきたくなかったんだ。
- こころの病気を知った日
- パパの気持ち
- 調べれば調べるほど…
- 出産する為に
こころの病気を知ったあの日
「赤ちゃんの手足が極端に短いって言われた」7ヶ月の定期検診から戻ったママが泣きながら言った。
一人目、二人目と元気に産まれてこころも当たり前に元気に産まれてくると思っていた。なんで?どういうこと?手足が短いってなんだ?落ちつけ、落ちつけ、
翌週病院に行きママがエコーで診察を受ける。やはり手足が通常より短く、骨の病気だとすると様々あり大学病院で詳しい検査が必要との事。落ち着け、落ち着け、パパが動揺したらみんなが不安になるぞ。先生から聞いたことが頭に入ってこない。ひとまず大きな病院で詳しい検査を受けることになる。
大学病院で検査を受けると「骨形成不全症」ではないかという診断が出る。骨が非常に脆く、骨折しやすい病気で、こころの場合お腹の中で骨折してしまい、それにより手足の発達が遅れて同じ週数の胎児より手足が短いそうだ。
骨の病気はとても沢山あり分類も細かい、産まれて見ないとわからない事も多いと先生は言った。家に帰って調べてみる。骨折のし易さは様々でそのまま気づかず大人になるケースや幼少期に何十回も骨折することもある。著名人で米良美一さんが同じ病気ということもわかった。
よし、こころ。君は歌を歌うんだ。米良さんはもののけ姫の歌で大ヒットしたんだ。当時テレビでは毎日流れていた。家族みんなで歌おう。
パパの気持ち
まさか自分の子供が障害や重大な病気を持って産まれてくるなんて。もちろん世の中には沢山の病気の子供や障害がある子供がいるのは知っている。でもまさかうちの子が。
骨折しやすいってなんだ。みんなみたいに走れないのか、見た目で差別されたり嫌な思いするのか、こころはどうやって病気のことを受け入れるんだ。仕事帰りの車で一人わんわん泣いてしまった。
その後は定期受診は大学病院へ。そして先生からママに伝えられたことが。
肋骨の成長が悪く、それに伴い肺の成長も良くない。産まれても呼吸が十分に出来ない可能性もあり産まれてすぐに亡くなってしまう可能性がある。
落ち着け、落ち着け、パパが動揺したらみんなが不安になるぞ。
お腹の中では羊水があり肺で呼吸しなくても問題無いが、産まれたら呼吸が必要で肺の成長によっては呼吸できないかもしれない。人口呼吸器もあるけど本人の状況によっては厳しいかもしれない。
現状で治療などはできず産まれてみないと肺の状況も正確にはわからない。骨系統疾患の中では重度に当たるタナトフォリック骨異形成症に当たる可能性がある、と。
産まれて息が出来ないなんてこころ辛いな。亡くなるとわかって産むってママ辛すぎるよな。あと数ヶ月でその時が来るけどパパはどんな顔したらいいんだろうな。今もお腹の中で元気に動いているこころにパパはなんて声をかけたらいいんだろう。どうしてもわからなくてその日からお腹の中のこころに声をかけられなくなってしまった。
調べれば調べるほど
骨形成不全症について調べてみる。遺伝子の病気で治療法は今の所無く、発生頻度は2〜3万人に一人とされている。骨が脆く骨折しやすい、白目が青くなったり難聴、歯の形成不全もみられることも多い。病気の度合いによってI〜Ⅳ型に分類され、重度の場合は産まれてすぐ亡くなってしまうこともある。
医師からは産まれて呼吸が出来ない場合、人口呼吸器をつける場合がある。けれどほとんど呼吸が出来ない場合、ただただ延命するのではなく状況によってはそれもストップするという決断も必要という話を受ける。
酷な決断を迫られるわけか。わかった。その時はパパが決めるよ。ママに決めさせるなんて辛すぎるもんな。なるべくこころが苦しくないように。
どうする事も出来ない。何でうちの子が。そればかり頭の中で繰り返される。公園で楽しそうに過ごしている家族。ベビーカーを押しているお母さん。電車で楽しそうにお出かけしている家族。何でうちの子が。
出産する為に
映画や小説では奇跡的なことが起きて最後はハッピーエンドがセオリーだけど、現実はそんなことはほとんど起きないのは知っている。もう30年以上生きてるからわかってるんだ。医学やテクノロジーが発達してもお手上げ状態になることも多々ある。現実を受け入れなければならない。
自然分娩ではこころの身体が耐えられないので帝王切開する事も告げられる。1週間程度の入院だけどコロナの影響で面会もままならない。ママもめちゃくちゃ不安だよな。一番辛いのはママだよな。万が一の時はママを支えてあげたい。
オーケー神様、覚悟は決まった。
でも、今回だけは少し奇跡を起こしてくれませんか?